映画「新聞記者」を視聴、マスメディアに無視され続ける大傑作

最近映画館に足を運ぶのは子供と観たい映画が公開しているときになってしまいました。
それはそれで楽しいんですが、本来僕が好むのはヒューマンドラマや歴史物、そしてサスペンス物。
今年公開され、SNS 上で話題になりましたがマスメディアでは一切紹介されない問題作をレンタルして視聴しました。
震えが止まらなくなるくらい衝撃を受けました。





映画「新聞記者」をご存知ですか?

本年公開された「新聞記者」という映画をご存知でしょうか?
公開初日から SNS 上で話題と評判を攫い、一部の映画館では連日超満員を記録。
興行収入も億単位を突破するなど、大ヒット映画の仲間入りを果たしています。

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映画「新聞記者」公式サイト

これだけ話題になったのにも関わらず、この作品はマスメディアで紹介されることは殆どありません。
むしろ完全に無視状態。
それは本作が「現政権批判」とも取られかねないくらい、昨今の日本の政界で起きた問題にインスピレーションを受けたであろう出来事が多く表現されているためです。
そして各マスメディアが、現政権へ忖度しているという厚い障壁が絡んでいるためと言われています。
本作で、政府からの圧力により政権のご機嫌取りとしか映らない報道しか出来ず、批判すれば即潰されてしまう様が可視化されてしまったがために、何もモノが言えないという状態なのでしょう。
主演の女性記者役を日本の女優にオファーしても、後が怖いと何人にも断られたというネット上の噂があるほどです。
僕がこの作品を知ったのもマスメディアからの情報ではなく、好きなアーティストの曲が本作のエンディングテーマになっているということを知り、そこで初めて興味を持ったという具合で、映画通じゃない一般の僕みたいな層が本作を知るというのは偶然に近い確率なんじゃないかなと。

それくらいひたすらマスメディアに無視される、一見曰く付きの様で実は真っ当な政治批判に繋がっている映画「新聞記者」。
あらすじやネタバレ詳細は他所に譲るとして、率直に感想を言うとすれば、「これが仮にフィクションじゃなかったとしたら、相当ヤバいな」と震えがとまらなくなったということです。
よくこんな作品を作ったなと思いますし、視聴したあとは震えと重苦しさで身動きが取れなくなるような感覚を覚えました。


真正面から政権批判に徹した作品

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日本の政治をテーマにした作品の場合、権力側の史実を歪曲して批判をする作品が多いです。
しかし本作は、史実に基づきつつ、真正面から政権批判に徹しています。
「言いたいことを代弁してくれている」と、カタルシスを感じるのは現政権に不満や疑問を感じる人達でしょう。
またそんな人が(SNS上とはいえ)大勢いらっしゃるというのが、大ヒットの証とも言えます。
反対に現政権の支持者には耳が痛い映画とも言えるでしょう。

一方で今作を視聴してちょっと気をつけなければいけないと思った点は、今作「新聞記者」は原作者の経験を綴った同名の小説を原案にしたフィクションであるということです。
まずこの大前提を把握したうえで視聴しないと、誤った情報に踊らされてしまうかもしれないなと思います。
今作は先述のように、昨今の日本の政界で起きた問題にインスピレーションを受けたであろう出来事が多く表現されています。

・「医療系大学新設」プロジェクト → 加計学園獣医学部創設問題
・スキャンダルで信用を失墜させられる大臣 → 前文部科学事務次官の前川喜平氏
・レベル4の医学実験施設設立により軍学医の癒着 → 加計学園にレベル3の施設を創設(長崎大学にレベル4の施設を創設)
・レ◯プされ海外のメディアで取り上げられた女性に対する印象操作 → BBCで取り上げられた伊藤詩織さん


どれも昨今起こった問題で、今作がこういった事象に影響を受けているのは間違い無いでしょう。
ただ気をつけなきゃいけないのは、今作も少なからずバイアスがかかっているということです。
大切なのは「フィクション」だという大前提があって、今作を観てここに描かれていることが全て真実だと受け取ってしまわないリテラシーを持つことだと感じました。
日本では、俗に言う「ポリティカルムービー」がほとんど作られてきていないということもあり、欧米と比べるとこの手の作品に対するリテラシーがまだまだ涵養されていない状況にあると思いますので、この作品内容が真実だと思い込まないように気をつけないといけません。
しかし矛盾してますが、これが真実なんじゃないか?と思わずにはいられない出演されている俳優陣の演技と、全体的な演出の妙には驚嘆せざるを得ませんでした。
演者たちの細かい感情の揺らぎを良く表現し、追いかけているネタがいかにとんでもないものなのかを我々観衆に知らしめ、あくまでフィクションでありながら現実に起きた事件を扱うことで、今我々が暮らす現実と密にリンクしているかのように錯覚させ、静かで、それでいて無味無臭感があるにも関わらず、喉元に鋭利な何かを突きつけられたような感覚になるというとんでもない作品だと思います。


誰よりも、自分を信じ疑え

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今まで僕の観た映画の数なんてたかが知れてますが、それでもそれなりに映画は楽しんできました。
その拙い自分の映画歴から記憶を引っ張り出してきても、日本には現代政治を題材にした映画はほとんど作られていない様に思います。
もちろん自主制作やインディペンデント系の制作で超小規模上映という形で公開されているものはありますが、ある程度の規模でその手の映画が公開されることはほとんどありません。
おそらくその理由として大きいのは、やはりスポンサーがつきにくかったり、制作してもメディア批判を含む本作の様な作品はテレビや新聞で宣伝してもらうことが難しくなったりすることでしょう。

アメリカでは 「バイス」の様なブッシュ政権に対する堂々とした批判と、トランプ政権への警告を描いた作品がアカデミー賞にノミネートされるような政治映画の土壌があります。
「大統領の陰謀」しかり、「スポットライト 世紀のスクープ」しかり、「ペンタゴンペーパーズ」しかり。
自由にポリティカルムービーを創り、公開し、それを受け止める民衆という土壌が生成されています。
日本映画界でもいずれはそんな映画が作られる土壌を作って欲しいとも思いますが、本作の内容や本作の世間での認知度(というかマスメディアの情報操作)を鑑みるとそんな土壌はできる訳が無いとも思います。
だからこそ今の日本に対する警鐘を込めて本作を作り上げたスタッフの皆さんには深い敬意を表したいです。
あくまでもノンフィクションだけど世に公開するにはあまりにも過激な内容なわけで、この作品が全国公開されたという意義が素晴らしいと思います。
これ絶対今後地上波でなんか放送しないですからね。
スポンサーもテレビ局も絶対手を出そうとしませんから。

では政治や時事ネタに疎い方に向いてない作品かというとそうではなく、話のスキームは案外簡単です。
作品全体から漂うサスペンス性と、立ち向かう相手がどれだけ巨大な存在で、手加減無しに潰しにかかってくることから生まれる恐怖心というのを肌で感じるだけでも充分この作品を観る価値があると思います。
また、作中よく出てくる「誰よりも、自分を信じ疑え」という言葉は誰の心にも刺さる言葉です。

ラストシーンでの「この国の民主主義は形だけでいいんだ」というセリフを、聞き流すか?それとも真剣に考え直すか?
我々観客側にも問題提起をしている点も見落としてはいけないところです。
真実を追いかけネタを追い続ける記者たちと、それが世に出ると政権や国の土台を揺るがしかねない混乱を招くので圧力を加える組織。
どちらにも大義があり、善とか悪とかではありません(本作では俯瞰的に組織=政府側が悪と表現されていますが、それでも政府側の正義は嫌というほど表現されていました)。
メディアを通して投げられた情報に対し、我々は真偽を確かめる必要があります。
果たしてそれは本当なのか?
それともフェイクなのか?
「誰よりも、自分を信じ疑う」という視点を磨けるような本作に続く作品が現れて、どんどん大きな流れを生み出してくれることを切に願います。
一応最後に言っておきますが、僕自身は現政権に対して諸手を挙げて支持派でも、強烈な不支持派でもありません念のため。