映画「リメンバー・ミー」は音楽演ってる家族持ちの僕の心を突き刺す大傑作だった

我が家はしょっちゅう映画館へ足を運びます。
以前から予告編が垂れ流されてすごく気になっていたディズニー/ピクサーの最新作「リメンバー・ミー」がいよいよ日本で上映開始となり、喜び勇んで視聴してきました。
なんで最近のディズニー/ピクサー映画はこんなにも泣けるんですかねえ。





「リメンバー・ミー」(原題 : Coco)とは

「それは、時を超えて、家族をつなぐ、奇跡の歌。」

舞台はメキシコ。
音楽好きの少年ミゲルでしたが、ある理由で家では絶対に音楽禁止!
だからミゲルはこっそり音楽を楽しんできましたが、見つかると家族にものすごい勢いで怒られてしまうのです……
亡くなった先祖の魂を迎える「死者の日」。
音楽のことで家族と衝突したミゲルは、憧れのミュージシャン、エルネスト・デラクルスが祀られている場所へ行き、そこに飾られていたデラクルスのギターを手にします。
するとなんと、一瞬のうちにミゲルは「死者の国」へ!
そこから祖先と家族を繋ぐ、ミゲルの冒険が始まるのです。


「リメンバー・ミー」(原題 : Coco)は第90回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞したディズニー/ピクサーの最新作(2018年3月16日公開)です。
本作の監督は「トイ・ストーリー3」のリー・アンクリッチ。
「トイ・ストーリー」シリーズの中でも最高傑作と言われる「3」の監督が手掛けた新作です。
本作は観る前から各映画賞レースを席巻していたため、どうしてもバイアスがかかってハードル上げざるを得なかったんですが、そのハードルを軽々と上回る大感動を得ることができました。
家族の絆がテーマの映画は数多くありますが、音楽、死者、祖先で家族を描き、なおかつユーモアと構成の妙で、最初から最後まできっちり楽しませてくれます。
「はい、ピクサーのマジック来たよー!」と思わざるを得ません。
真面目な話、力があり心もある製作陣が他国の文化に最大限の敬意を払って、ありのままに作りたい映画を作ると、もうそれだけでかなりの傑作になるという証明でしょう。


主人公のミュージシャンへの夢

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主人公ミゲルは音楽好き、ギター好きの少年で、将来の夢はミュージシャン。
でもミゲル一家は過去のある出来事から、子孫の彼に至るまで音楽禁止。
音楽を聴くことも口ずさむことも、まして楽器を奏でるなんてもってのほか。
しかしミゲルはミュージシャンという夢を捨てられず。

これ、音楽(特にバンド)を演ってる人だったら激しく共感しまくる話なんじゃないでしょうか?
僕らが小中学生の頃、バンドを演ってるヤツなんて不良だアウトローだごくつぶしだと白い目で見られ好奇の目に晒され、家族にも猛反対されるなんてことをたまに聞きました(幸い僕はそんなことなかったんですが、夜中のギターの音がうるさいなどよく注意されたものです)。
この「好きでやりたいことが家族に良い顔されない」感覚って幼ければ幼いほどなかなかに堪えるものだと思います。
でもギターの天才的な腕を持つ主人公のミゲルはどうしても夢を諦めきれずに、年に一度他界した先祖が家族に会いに来るという「死者の日」(ラテンアメリカで実際に存在する祝祭、日本でいうお盆かな?)にアクションを起こします。
結果このアクションが「死者の国」に彼が迷い込むきっかけになるのですが、こういう初期衝動にも似た、夢に突き動かされるアクションって今の僕にすごく刺さるんです。
多くの大人がそうだと思いますが、歳を取るにつれて変に物分りが良くなってしまい、いろんなことに(悪い意味で)折り合いをつけて、いろんなことを少しずつ諦めてきた僕にとって、ミゲルのどうしても捨てられない夢を叶えるためのアクションは、忘れていた僕のあの頃の情熱を思い出させるようで、とても眩しくとても清々しく、少しだけ心が締め付けられました。
今の人生に後悔や悔いはありませんが、もしあの頃実際に僕が起こしたアクションと別のアクションをしていたら今頃はどんな人生だったんだろうと考え込んでしまいました。


家族の絆

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物語は「死者の日」に「死者の国」に迷い込んでしまったミゲルとそこで出会うガイコツ姿のご先祖様達や相棒ヘクターとの出会いで転換していきますが、この「死者の国」の描写が息を飲むほどに美しいんです。
日本人だと「死者の国」と言われてイメージするのはおどろおどろしい、陰気でベタベタした暗いイメージしか浮かばないと思いますが、今作の「死者の国」はそれとは真逆の美しさ。
死後の世界を表す色の使い方としては過去に類を見ないのではと思うほどで、特に彼岸と此岸とを結ぶ橋の暴力的なまでに鮮烈な色彩の優しさは特筆ものです。
この美しさは映画館の大きなスクリーンで観て本当に良かったと思えるポイントでした。
また、登場するご先祖様や相棒ヘクターなどの死者も、みんなガイコツ姿なんですがとても陽気でとても可愛い。
この徹頭徹尾明るいキャラクター作りや、死者の世界とは思えない美しい世界観なんかもピクサーの真骨頂だと思います(でも実際のメキシコでの「死者の日」も音楽を奏でたりいろんな格好をして明るく楽しむらしいので、この事実からインスピレーションを受けたような気がしますが)。

このご先祖様達との面白可笑しいやりとりがフラグとなり、後半一気にホロリとさせられるんですよ。
「死者の日」に生者の国の祭壇に自分の写真を飾ってあったら、死者たちは一日だけ生者の国へ旅行に行くことが出来ますが、生者の誰も写真を飾ってないために旅行に行くことが出来ないヘクターの切なさ。
生きている家族が完全に自分を忘れてしまったら死者の国からも消えてしまうという二度目の死を迎えなければならないという死者側の時間との闘い。
生者がこの死者の国に紛れ込んでしまったら、日の出までにこの国の家族に許しを得なければ生者の国に戻れないという生者側の時間との闘い。
愛している者へ愛していると伝えたいという生者にも死者にも共通した想い。
家族や先祖との繋がりや思い出があって今の自分がいるという事実。
様々な感情の振り幅のあと、物語後半のどんでん返しで驚きと同時にド級の感動が押し寄せてきます。
実際、一緒に鑑賞した娘は後半部で「うぅ、うぅ」と声を出して号泣していました(娘の隣に座ってた、おそらくデートで鑑賞していたであろうブサカップルが号泣する娘を見て若干ヒいてましたが、終演時にそのオネーさんもマスカラハゲるくらい泣いてました。ますますブサイクになっちゃって化粧って怖いね、いやその後のお化粧直し大変そうですね)。
娘曰く、なっちゃん (昨年他界した僕の祖母、娘から見てひいおばあちゃん)に会いたくなったと。
9歳の娘にも感じるものがあるんだと感心するのと同時に、僕もウルウルとこみ上げてくるものがありました(その娘と僕の間の席で派手にポップコーンを床に落としてゲラゲラ笑っている息子から余韻ぶち壊しにされて閉口したのを一応ご報告しておきます)。


おまけのアナ雪も良かった

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今作の上映前に、数年前に大ヒットした「アナと雪の女王」のその後のサイドストーリーが上映されました。
この話も本編同様家族との繋がりを表現しており、当時アナ雪にハマりまくった娘も息子も大喜び。
日本語吹き替えのキャストもそのままで、短い時間でしたが大変満足出来る内容でした。


リメンバー・ミーはピクサー史上最大の挑戦作で最大の傑作かもしれない

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今作は主人公が音楽好きの天才ギター少年ということで、かなり音楽性の強い作品に仕上がってます。
音楽ミュージカルというのはディズニーの伝統だと思うのですが、ピクサーがここまで「音楽」というテーマにガッツリと取り組んだのは初めてのような気がします。
「楽曲」として音楽は今までも取り扱ってきました。
それはキャラクターが自分の心情を歌い上げるという伝統的なミュージカル形式です。
しかし今作の中にはライブパフォーマンスとしてキャラクターが演奏したり歌ったりするシーンがとても多い。
全力でパフォーマンスをするキャラクターに僕ら観客も寄り添うことができますし、感情移入もしやすくなると感じました。
また、細かく観てみるとギターの運指などの描写もすごく正確なんですね。
アニメーション作品ですから、この辺は描き方でいくらでもごまかせてしまいそうなんですが、演奏している部分をちゃんと描くことによって天才ギター少年ミゲルというキャラクターのバックボーンに説得力が生まれますし、何より「音楽」をテーマにしたピクサーの本気が感じられます。

そして今作は、死者と生者の繋がりから家族の絆を表現しています。
そのためなのか出てくるキャラクターがガイコツだらけなのにとにかく魅力的。
ガイコツだからといっても怖いという印象は皆無ですし、ガイコツなのにきちんとキャラ分けされており、作中「このガイコツって誰だっけ?」と混乱することはありません。
ディズニー/ピクサーで死者、ガイコツを魅力的に描くというのがそもそも新鮮でしたが、それも考えてみれば当然の話で、この作品のなかではこのガイコツたちは普通の人たちであり、普通の家族なわけですからね。
死んでいるからといって変に怖くすることなく、その普通さをこれほどまでに可愛く表現出来るキャラクターデザインには圧巻の一言です。
死者を迎える「死者の日」。
日本には似たような概念でお盆がありますが、今作を観たあとだと自分のお盆の迎え方や捉え方などに変化が生まれたような気がしてなりません。
そして「二度目の死」とはよく言ったもので、自分たちは世間からは所詮忘れ去られていくだけの存在に過ぎないけど、家族からは忘れられたくないという死者たちの想いが、日本の神道や仏教の先祖信仰ともマッチしていて、妙に腑に落ちました。

「音楽」「祖先を含む家族との繋がり」
この2つのテーマを同一作品で扱うというのはかなりチャレンジングだと感じますし、そのテーマを完全に昇華させており、(僕自身そんなにディズニー/ピクサーに詳しいわけでも思い入れがあるわけでもありませんが)ピクサー史上最大の傑作のような気がしています。
いわゆるディズニーの伝統ともいうべき白人女性のプリンセスストーリーとは一線を画する今作が、何故世界中でこんなに大ヒットしているのか?
それは多分、誰にでも家族がいるからではないでしょうか?
自分が死んだあと、家族にはどんな風に覚えていて欲しいのか、忘れないでいて欲しいのか。
みんな考えたことがあるでしょうし、世界中のどこに住んでいてもそれは共通して経験する想いだから、誰もが感情移入しやすくこんなに大ヒットしているんだと思います。
自分の人生や家族に想いを馳せることができるようになっており、思ったよりもかなりエモーショナルな作品で、視聴前の期待よりも奥行きや深みのある作品でした。
先日視聴したばかりなのにすでにもう一度観たいと思いますし、DVDやiTunesでの販売が始まったら「買い」の作品だと思っています。

日頃祖先のことを考えることはそうないけど、今作を観て僕は、自分の性格や生き方、環境全てにおいて影響を与えられているのを感じました。
家族という機構が「今の生活」「将来」という展望で期待されがちな現代ですが、この家族を作ってきた「過去」を思って改めて見えてくる、現在未来や築ける関係もあるのではないでしょうか。
両親、祖父母、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんなど、遠い祖先がいて今の自分がある。
そして僕と妻がいるから子供たちやまだ見ぬその子供たちがいる。
家族とは時に枷にもなってしまうけれど、それでも時を超えて家族は繋がっている。
大切な人のことを忘れないこと、大切な人の記憶の中で生き続けること。
自分は「家族」という巨大な歴史の一部であり、後世に受け継いでいく義務と受け継がれていく権利があるんだなと痛感しました。

家族の繫がりを改めて熱く感じさせてくれる映画「リメンバー・ミー」。
ちなみに原題は、ミゲルのひいおばあちゃんの愛称「Coco」なのですが、日本語タイトルの「リメンバー・ミー」の方が、この映画がいちばん語りたいことを表現していると思います。
ピクサーの前作 カーズ/クロスロードの感想 にも書きましたが、最近のピクサーには泣かされっぱなしです。
わかりやすく観た人を幸せにしてくれる物語はめちゃくちゃ尊いです。
まだ公開して日も浅いので、この作品は是非映画館の大きなスクリーンで視聴することをオススメします。

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鑑賞後、目を腫らす娘、変わらぬ息子、どちらからも激しいポップコーン臭。お父さんのこといつまでも覚えててね!