【書評】「円空を旅する」読了

骨折、入院から早2週間強。
さすがにヒマを弄ぶようになってしまいました。
データ化した未聴の映画をひたすら視聴して時間をつぶしておりますが、たまに猛烈に活字が読みたくなります。
そんな折、歳の離れた友人 @from_yamagata さんが本を届けてくれました。



円空を旅する

届けて頂いたのは、円空を旅する夫のちんぽが入らない の2冊。
後書は最近話題になっているので書名だけは存じていましたが、僕は前書の表紙とコピーを見て興味をそそりました。
僕らの世代にはど真ん中のマンガ “SLUM DUNK” や “バガボンド” の作者、井上雄彦さんが江戸時代の修行僧であり生涯に12万体の仏像を制作したとされる円空の足跡を辿った当本。
井上さんの書き下ろしスケッチも掲載されているとのことで、一気に読了しました。

enku-and-chinpo
手前 : 俗 奥 : 聖
手前のはまぁ、そのうち読むよ


円空とは?

円空(えんくう、寛永9年(1632年) – 元禄8年7月15日(1695年8月24日))は、江戸時代前期の修験僧(廻国僧)・仏師・歌人。
特に、全国に「円空仏」と呼ばれる独特の作風を持った木彫りの仏像を残したことで知られる。

円空は一説に生涯に約12万体の仏像を彫ったと推定され、現在までに約5,300体以上の像が発見されている。
円空仏は全国に所在し、北は北海道・青森、南は三重県、奈良県までおよぶ。
その中でも、岐阜県、愛知県をはじめとする各地には、円空の作品と伝えられる木彫りの仏像が数多く残されている。
また、北海道、東北に残るものは初期像が多く、岐阜県飛騨地方には後期像が多い。
多作だが作品のひとつひとつがそれぞれの個性をもっている。

Wikipediaより引用


円空は修行僧であるが故、全国各地を廻国し、その土地の人々に御仏の教えを伝えつつ、木で仏像を彫り残してきたそうです。
その仏像は円空仏と言われ未だに現存している仏像も多く、その作風も作った時期により変化しており、多作ですがそのひとつひとつがそれぞれの個性をもっているとのこと。
ただ、現存する資料は少なく、どんな人物だったのか、なぜ仏像を彫り続けたのか、作品はどのように変化していったのか、その生涯には謎が多いとされています。
本書ではその円空仏を井上さんが円空の足跡を廻り、円空仏をスケッチし、同じ作り手として何を感じたのかが記されています。


優しい表情の円空仏

寺社仏閣好きを自称する僕ですが、仏像までは興味が至らなかったというのが正直なところです。
でも本書に掲載されている円空仏は表情が穏やかでとても優しい。
一般に仏像の表情は微笑んでいるとは言うものの、円空仏はひときわ優しい。
写真ですらずっと見ていたいと思わせる柔和な表情をしています。
その作風は、前期では作り込んだ感があるんですが、中期・後期になるとどんどん簡素化されてシンプルになります。
円空は仏像を作っていくに連れて、自分の仏像作りのルールがどんどん固まっていったのかもしれません。
面白いのが、本書のコピーに井上さんの
「お師匠さんがここにいた!」
という言葉がある様に、円空の足跡を廻っている井上さんの作風も昔と今では円空仏と同じような変化をしていると感じることが出来る点。
井上さんの作品を読んだことのある方ならお分かりかと思いますが、”SLUM DUNK” と “バガボンド” では絵柄から作風、主題までガラッと変化しています。
円空さんと井上さん、何か通じるものがあるのかもしれません。

本書を読むと、円空仏は(井上さんの言葉を借りると)現役感がものすごいそうです。
保存を考えればケースや倉庫に収納されそうなものですが、剥き出しのまま置いてみんなが触れる様になっています。
人と仏像が直接的に交流している様は、仏像の本来のあり方の様な気がします。
円空さんは仏像を彫ることで難しいことを言おうとしていた訳じゃなくて、本来誰にでも理解出来るにも関わらず、みんなが忘れがちなことを世の中に伝えようとしていたのかもしれません。
それは、動物であれ、人間であれ、植物であれ、生命を持っているものは全て同じだということだと思います。
誰もが自我という蓋を外せば、ただの生命体であるということに気づくのだと。

現在まだリハビリの最中で、うまく歩くこともままならず、鬱々としているというのが嘘偽りのない今の心境です。
自分の存在すら否定したくなっていた今このときに、この本を読了出来たことはとても良かった。
自我に凝り固まっていましたが、蓋を外せば僕もただの生命体なんですね。
円空仏の柔和なお顔で、荒んでいた気持ちがちょっと楽になりました。
そして退院したら、是非円空仏を直に見てみたい。
@from_yamagata さん、この本を持ってきてくれた責任として、僕と円空仏ツアーに行きましょう!